先日、剣道の達人の知人と、その人の出身地近辺(都内某所)を散歩した。
現在は他所にお住まいである。
以前の職場でお世話になった人で、たまに街歩きなどにご一緒させていただいている。
たいてい2箇所、喫茶店をハシゴするので
改装されてすっかりイマっぽくなっている。
ホットケーキがウリらしいが、サンドイッチなども充実している。
この日は天気はよかったが、風がすごく冷たかった。
水路の多い街はさわやかで開放感があるがその分冷える気がして
日向を歩かなければ薄手のジャケットでは寒さが堪える。
このあたりは近年、空き倉庫を利用したコーヒーの焙煎所が増え、併設されたカフェが百花繚乱。
海外から進出してきた某カフェもあり、しばらく列が途絶えなかったが
この日は列がない。
当初、ここに入ろうと決めていたが、なんとなく違う感があり、
後ろ髪を引かれながらやり過ごした。
早々とやってきた日没後はさらに寒さが堪えた。
多分これは、以前行ったあの喫茶店に落ち着く流れだと思っていると
先方もそのつもりだったらしく、薄暗がりに明かりを見つけてそそくさと駆け込んだ。
店内に他に客はいなかった。
ついたての奥の「予約席」の隣に落ち着く。
そこは骨董カフェと言っても差し支えないような店だが、古道具専門店のような重苦しさはない。
ランプやサイドボードはアンティークだが、食器類は新しい美品が多そうだし、
手入れも行き届いている。
前回来たとき、剣道の達人(仮にTさんとします)はこの店をなんとなく気に入ったようだった。
というのは、Tさんの好きな刀剣のコレクションがあるからだ。
私はもちろん刀剣に興味がなく、どちらかというとあまり好きではないが
このお店(仮にEとします)の雰囲気は悪くない。
コーヒーもサンドイッチ類も、ケーキも美味しい。
私は骨董品を楽しむというよりは、ここの味を楽しみに来ている感じだ。
もちろんサイドボードや食器類、ランプやその他テーブルや椅子に至る調度品の趣味も悪くなく、そこそこ居心地もいい。
ただ、それぞれ相当金がかかっていそうだから、金目のものという目で見てしまう。
その隣の「予約席」は、どうも誰かが予約しているのではなく、何か「作業中」な雰囲気だった。
Tさんはその席で何が行われているか、一目でわかったようだった。
布がかけられているが、下にあるのは刀剣らしい。
見る人が見るとわかるようだ。
手前に古めかしい枕や古裂があるので、私には何か手芸品の製作中ぐらいにしか見えなかった。
コーヒーやホットサンドを賞味している間、店主らしい人が出てくる。
前回はママだけで、店主の姿は見えなかった。
予約席に着くと、掛けてある布を取った。
果たしてそこには、羽二重の袋に収まった何本もの刀剣があった。
取り出しては手入れをしていく。
刀身のギラリとした輝きに圧倒される。
普通の刃物とは違う、どこか尋常でない輝きだ。
緊張感を与え、目が離せない。
こういったものを収集しようという感覚は、どこか普通ではない。
伯父が収集していたが、遺品整理をした父が、決して手を出さないよう私に強く言いふくめたことがあった。
同様に、掛け軸にも手を出すなと言われた。
詳細は伝えられなかったが、よほどのことがあったと思われる。
父は一見屈強な肉体派だったが、どうもそういった感覚はなかったわけではないようだ。
(「武田菱?」その2に続きます)