(「武田菱? その1」より続き)
まあ、私には男性のような収集癖もないし、興味もないし、収めるに相応な入れ物もない。
その様子を見ていて、机の端に置かれていた古裂の枕は、手入れ中の刀剣を休ませるためのものだとわかった。
よくテレビで見るような、タンポも使っている。
以前、寺で信者さんからの刀を預かっていた際に、Tさんが来て手入れをしていたことがあった。
その時は口に和紙をくわえ、やはりタンポを使っていた。
結局その時の刀は、Tさんが譲り受けることになり、今も所持されている。
当初は、手入れができるTさんが一時的に預かるという形だったが、結局元の持ち主が亡くなり、
和尚もいなくなってしまったので、Tさんのところに留まっている。
一連の出来事を見ていると、やはりモノとの間には縁があることを感じるし
さらに刀剣には魂があるので、持ち主を選ぶということが納得できる。
本当に剣を使える人を主人と決めるように思われる。
元の持ち主はお医者さんの奥さんだったが、お家柄のいい方だったらしい。
Tさんが店主に声をかけ、コレクションを褒めた。
店主も居合いをされるそうである。
話をするうち、江戸時代の刀に残る刀傷を見せていただいた。
「この刀は、血を吸っているでしょうね」
と店主は話された。
ギラリとして、どことなく気味が悪い。
普通の金属の明るい輝きではなく、けばけばしさというか
華やかさの裏に、どこか毒気を感じるのだ。
もともと刀は「邪心(=欲望に捉われた心)を斬る」というものだそうで、神の魂が込められているらしい。
だから男性は(刀剣を)見たがらない人が多く、たいてい拒否するという。
女性の方が見たがるそうだ。
邪心がないと認められたような気がして、つい気分がよくなってしまう私だが、
そういうところに自分のスキがあると思う。
結局、いい人間と認められたいスケベ心があるのだ。
それで、そこにツケ込まれるわけだ(笑)。
自分のこれまでの失敗は、いつもこの辺りに起因している気がする。
さらにネットオークションの話についても聞かせてもらった。
そうした刀をこんなに次々手入れして、大変なことにならないのか心配だった。
というのは、以前も書いたが、Tさんが手入れした刀はしばらく寺の本堂に置かれていたが、ヘンな感じがしてどうしようもなかったからだ。
着付けの教室で知り合った人、仮にSさんとしますが
やはり東北に本拠地のある武家の出なのだそうだ。
彼女の旧姓はKというが、そこにK城という城もあったと言う。
で、彼女のお母様が生前、一戸建てからマンションに住み替え、家の蔵を整理された時、合口は手元に残し、磨いたのだそうな。
するとその晩から眠れなくなり、支障を来すようになったので
霊能者の人に尋ねると、磨いたせいで合口が眠りから覚め、影響を及ぼしたらしい。
この話は以前書いた気がする。
Tさんが刀を磨いた後も、どうしようもないくらい重苦しい感じが出て
勤行の時など、体が押さえつけられたように動かなくなることがあった。
当時の事務所自体もワケアリの場所ではあったが、刀を磨く前にはそこまで押さえつけられた感はなかった。
だからその店Eも、そんなに磨かれた刀ばかりあったら、少なくとも夜には大変な雰囲気になるのではと思うが、その店にいる限りそんな感じはない。
しかし一人でも行きたいかと問われれば、Tさんがいるから行くわけで、自分一人ではおそらく行くことはないだろう。
つまり自分的には、どこか避けたい店ではあると思う。
(「武田菱? その3」に続きます)