「失礼ですね!」
秘書の口癖だ。
「この程度のものを持って来て、『皆さんでお召し上がりください』って、
どういうことですか?」
毎日のようにお参りに来られる信者さんが、
先週の火曜日に持って来てくれたウーロン茶の1リットル入りペットボトルのことを言っているのだ。
「お世話になっている人に対して、袋菓子やこういうもの持ってくる人たちって、信じられないわ!」
まあ、たしかに正論と言えば、言えるかもしれない。
せめてお世話になった人には箱もので・・とも思う。
でも、いるよね、お茶やお花の世界とか、まあ一般でもそうだけど、
常識にうるさくて、若い人を批判してばかりの人。
型でしか判断できなくて、その先にあるものは何も見えない。
自分じゃきれいなつもりだろうけど、批判する顔が誰よりも醜くなってることには気づかない。
まあ、文句だけならかわいいものなのだが・・
基本的にこの寺院に信者の方々が持って来て下さった物は、
ご本尊様のものであり、和尚のものだ。
だから「皆様で」とおっしゃって頂いても、従業員は一応、辞退する。
小坊主自身もそれでいいと思うし、また、
この寺に入ってからそのことは秘書からもうたくさんってほど聞かされてきた。
このお供物を、実はというかやっぱりというか、秘書が狙っている。
何が来たかチェックして、「和尚のものだから」と言って回りを威嚇し、気に入れば持って帰る。
ヴーヴ・クリコが届いたとき、その騒ぎ様は大変なものであった。
和尚に勧められて他の人が持って帰ろうとしたら、その人は猛烈な攻撃を受けたようである。
もし気に入らないものが届いたら、先のような言動になる。
持って来てくれた人たちは、秘書ほど金銭的に恵まれているわけじゃない。
彼らは彼らなりの基準で謝意を表してくる。
やがて、「皆さんで・・」と持ってくる人たちも、何も持ってこなくなる。
従業員はもちろん、だれも持って来てくれた人に、お礼を言わないからだ。
「どうでしたか、お口に合いませんでしたか?」
と言われても、自分の知らないところで受け渡され消費されているので、答えようがない。
もちろん口裏は合わせるが、贈った人も、何か感じるのだろう。
小坊主はお酒がダメだから関係ないけどさ、
ちょっとぐらい分けてくれてもいいんじゃないか・・と、思うよな。
それに欲しくなくてもそこまで「あんたにはやらない!」って態度に出られちゃうと、
なんか持って帰りたくなっちゃうような・・。
「いいですよ、べつに、いらない。」
と言いつつ、自分の欲望に向き合わされるから、ヤだよね。
ホントは欲しいのかな、欲しいんだろうな・・
欲しいよ!!!
恵まれてるんだからさ、そんな贈った人をバカにするんなら、
あんたもらわなくてもいいじゃん!
アタシにちょうだいよ!
秘書は子供を中学受験用の塾に行かせている。
その子が、「先生に目をかけられているから・・」というのだそうだ。
「優秀なお子様は違いますね」
と返したら、
「付け届けのせいですよ。」という。
付け届けってそんなに有効か?
付け届けがあれば誰でも人は動くのか?
むろん、ないよりはマシかもしれん。
有効な場合も、確かにあるし、重要視する人も確かにいる。
少なくとも秘書はそうなのだろう。
でも、この人から何をもらおうとありがたくないってのもあるよな。
何を期待してるのかミエミエな人からはさ。